「はちのすくすのきげんきであります」
その謎の文章が書かれた手紙は、多分俺が今まで生きてきた中で初めて見たラブレターだった。

ラブレターとは。好きな相手に伝えたい自分の気持ちを手紙に記して、相手に渡すことだと、…俺は今まで思っていたけれどどうやら違うらしい。これをラブレターと呼ぶのなら。
封筒の裏に、同じクラスの女子の名前が書かれているそれをぼんやりと見つめながら、これは果たしてラブレターなのか、これをラブレターと呼んでいいのか。そもそもこの女子は何を思ってこれを書いて、そして間接的ではあるけど俺に渡してきたのか。はちのすとは何のことなのか。この手紙を渡してきた女子の名前から、女子本人を思い出そうとする。…クラスではあんまり目立たないタイプの子だったことぐらいしか思い出せない。確か、そんなに髪は長くなくて…。

朝練終わりの少しだけ疲れた思考回路じゃ何の考えも及ばなくて。自分の机の中から出てきたそれを、取り敢えず俺は鞄の中へ仕舞った。クラスメイトも多いし、見るのは別に放課後でもいい気がする。そう思いながらゆっくりと、俺は上半身を屈めて机に突っ伏して寝る体勢を取った。一限目は確か古典だから、寝ていても怒られる事はないだろう。そうぼんやりと考えながら、ゆっくりと瞼を下ろした。段々と、周りの声が薄れていく、中。ふと、担任が「今日の日直ー!」と声を上げた。その声に、俺の隣の席の女子が「はい」とみじかい返事をして、席を立つ音が聞こえた。カタン。俺の瞼もまた、上へと持ち上がる。たしか、今日の日直はあの女子の名前が書いてあったような、気がする。席を立った、日直、と呼ばれた女子と不意に視線が絡む。驚いて目を見開いた俺を見て、女子は何事も無かったように視線を俺から担任へと移した。
髪はそんなに、長くなかった。






2015.0105




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